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『おいしいもののまわり』刊行記念 土井善晴×橋本麻里トークイベント「おいしいものは美しい。」1/15(金)イベントレポ【後編】

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(最終更新日:2016年11月8日)

『おいしいもののまわり』刊行記念 土井善晴×橋本麻里トークイベント「おいしいものは美しい。」1/15(金)イベントレポ【前編】の続きです。

※前編に引き続き、手元のメモをたよりにしているため不充分な点がありますことをご了承くださいませ。

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橋本さん:
この本を読ませて頂いて良く出てくるキーワードがあったんですよね。
「綺麗」という言葉なんですけれども。
美意識の起源、原点は「清らかさ、正常であること」その対比で「汚れ(けがれ)」
この本を読んでいて、その美意識と通じることがたくさんありました。

土井先生:
誰かが大根おろす時ね、私聞くんですよ。「皮むくの、なんで?」「なんで皮むくん?」
意外とパッと答えられないんですよね。
みんないつのまにかどこかで教わってるんですよ。

なんでむくかと言うと、皮むいてからおろすと、綺麗なおろしができる。
ハレの料理(見た目に美しい料理)は綺麗であることが最重要。味は必要ないんです。

(「ハレ」と「ケ」については以下をご参考ください。土井先生は講演でいつも「ハレ」と「ケ」のお話をされます。)
※参考:「ハレ」と「ケ」|暮らし歳時記

橋本さん:
「雑味がない」「澄んだ」「清らか」など、本当に美意識の原点に通ずる言葉が土井先生のこの本にはたくさん書かれているのが印象的でした。

土井先生:
日本人て言うのはね、素晴らしいんですよ。お料理だけじゃなくて見えないところまで綺麗にする。日本料理店だったら、厨房までピカピカに美しい。お客様にお見せするところではないのに、表ではなく裏まで綺麗にしてしまうその心意気。心地よいものがおいしいものを生むんです。

橋本さん:
「心で挽くな、手で挽くな、闇夜に霜の降るごとく、櫛の歯を挽きなさい」と言う言葉があります。完成された「モノ」だけではなく「動作」にまで美意識があるんです。

(以下、橋本さんのツイートを引用)

※参考:マツ@むぎわら戦士のブログ:闇夜に霜の降るごとく

土井先生:
近頃の料理、特に野菜は「うまみの濃いもの」=「おいしい」となりがちです。
日本の野菜は味が薄い、水分が多いから合わない。たとえばフランス料理に合う野菜は、海外のどこどこ産のナントカ、とか。
こういうの聞いたことありますでしょ?
日本野菜は「水くさい」のが良いじゃないですか。
日本で採れた野菜をすぐに食べられる。新鮮なもの、おいしさは瞬間的なものです。
うまみが濃いものをわざわざ空輸で持ってきて、というのとはまたおいしさが違います。
「流れる水」が一番おいしい。
綺麗に澄んだ水も、そのまま置いとけばずっといいかというとそうじゃない。
おいしい瞬間を逃さずにいただく。これが一番おいしいんです。

橋本さん:
歴史のあるお寺など「古びたもの」を美しいと思う反面、「今生まれたもの」も美しいと思える。
日本人は素敵な美意識を持っていますよね。

(前後の文脈を忘れてしまったのですが、メモに「わびさび」と書いてありました。以下リンクご参考ください。)
※参考:侘び・寂び | 日本と日本人の文化

土井先生:
料理を作るときは、その時々の状況があって、こうしたほうがいいなと理由があって、それから献立が決まります。
みなさんね、「レシピ通りに作らなきゃ!」なんて思わなくていいですよ!(会場笑)
ちょっとくらいレシピがぶれてもおいしいですよ!
「おいしくできなかった」なんて仰りますが、自分が思った味じゃなかったら失敗ですか?
ちゃんとおいしいですよ。

橋本さん:
しかも、先ほどここに出てくる前に前室でお話を伺ってたら、さらにその先があるらしいです。(笑)

土井先生:
もうね、おいしくなくてもいいと思う。(会場大爆笑)
みなさん、いろいろから解放されてくださいね(笑)

橋本さん:
笑いとどよめきが起こっていますが。まだその境地にはいけそうにありません(笑)

土井先生:
工夫しないことです。何もしないところに「おのずから」おいしくなります。

橋本さん:
「おのずから」ですか…それはやはり土井先生の境地に至ってこそのような気もしますが。(笑)

(ちなみに「工夫」とは禅語から日常語になったそうです。以下ご参考ください。)
※参考:工夫(クフウ)とは – コトバンク

土井先生:
たとえばね、シェフの誰々が作った料理。料理をシェフの名前で評価しますか?それだけではないと思うんです。

橋本さん:
先日、私もそれはそれは美しい、芸術のような料理をいただいたんですけれども。
もう「食べた」というより「経験した」という表現になってしまいますね。
芸術をひとつひとつ見ていくような、知的な刺激でした。

土井先生:
たとえばフランス料理などは、「我」の表現なんです。
和食には「我」は要らないんです。
和食というのは必要以上に手をかけない。何もしない。
だからミシュランなどの評価はされにくいんですね。

和食と言うのは本当に素晴らしいんです。世界の料理を見て来たけれど和食が一番だと思う。
しかし、他者に伝えることをしてこなかった日本の弱みが露呈してしまっている。
現在の和食の苦しいところですね。
「見て覚えなさい」「料理は理屈じゃないんだ」ときちんと形にして伝わってこなかったから、素晴らしさがまだまだ伝わっていないんです。

お正月=生まれ変わる、リセット

土井先生:
お正月は家族で着物を着ます。普段は部屋着で過ごす間柄の家族とちゃんとした時間を過ごすことで、気持ち新たに迎えています。
節目節目のお料理があるのも和食の素晴らしいところです。

橋本さん:
まさに「ハレ」と「ケ」ですね。

土井先生:
普段の家庭料理では、お刺身や旬のものは、「向こう付け」ごちそうなんです。
だから基本的には一汁一菜。そんだけでいいんです。

※参考:向こう付け(ムコウヅケ)とは – コトバンク
※参考:会席料理 – Wikipedia

土井先生:
料理はそれだけでいいから、だから「うつわ」を楽しむんです。
食器、うつわ。毎日使うんだから、良いものにしましょうよー。
和食と、工夫はしない、だから、うつわを選ぶことが「盛り付け」です。
高い食器を買うとかそういうことではなく、好きなものと出会ったときに求められたらいいと思います。

自分のお茶碗と湯のみがあるのって、日本の不思議ですよね。
日本だけなんですよ。「自分の食器」があるの。
あれ何でなんだろうなって考えたんですけど、たぶん、自己主張なのかな?(笑)
お外では自己主張しない日本人だけれども、家の中では「私のはこれやで」みたいな(笑)
みんな外に行ったら社食で同じやつ使っててもなんも言わないのにね?
家では「お父さん私のお茶碗使わんといて!」とか(笑)
うちの娘がね、最近私のお茶碗を使うんですよ。「これがいい」なんて言って(笑)

それから、なぜお茶碗を持って食べるんでしょうね?これも日本だけです。
こういうのを考えることが楽しいんですよ。「そうなんじゃないかなー?」と思うことが楽しい。

・・・あ、橋本さん、あれ。あれ。

橋本さん:
あっ、すっかり忘れてました(苦笑)
今日は、お見せしようと思ってもってきたものがあるんですよ。
(橋本さんが私物の弥生土器を持ってきてくれていて、バッグから取り出す)

参考:「弥生土器 画像」の検索結果

橋本さん:
縄文土器のような装飾はなくて、弥生土器はつるんとしています。
「煮炊きすること」の原点は、2000年前にはあったんですね。
なぜそれがわかるかというと、この弥生土器の口の部分が黒くなってすすけているんです。
火を起こして炊いていたことがわかります。

土器で茹でることで、アクが抜けて、食べられる。
かつての四大文明をはじめとして、歴史では「土器の出現」と「農耕の出現」は同時なんです。
ただ、日本の文明の発達だけはちょっと他と違っているんです。
他の文明では、土器の出現と同時に農耕、つまり食物を植えたり育てたりということをやっていたんですが、
日本はどちらかというと「食べられるものを農耕で作る」ではなく「食べられるものの種類を増やした」んです。
そのままでは食べられなくとも、煮炊きすることで食べられるようにする。
これが1万年くらい前からなんです。

(余談ですが、橋本さんのお話の間ずっと両手で弥生土器を大事に抱えている土井先生がとてもかわいかった…笑)
(またメモ不足で話が飛んでます)

土井先生:
お刺身は「作る」じゃなくて「造る」「お造り」などと書きます。特別なものなんです。
まな板の「まな」もお魚のことです。お魚専用の板があるということは特別なことです。

参考:まな板(まないた) – 語源由来辞典

野菜などは、神が宿るもの。
そう思ったら、おのずから雑には扱えないでしょう?
みなさん、おのずからできるんですよ。

日本人てね、誰かなにかのせいにするんですよ。
「結婚することになりました」とかね(笑)
なったんですか、と(笑)
「結婚します」「結婚しました」とはならないんですね。

誰かのおかげでできるではなく、「おのずから」できますから。

橋本さん:
「おのずから」本日のキーワードですね。(笑)

土井先生:
料理はむずかしいことは考えなくていいです。
毎回「今日初めて料理する」という気持ちでやったらいいですよ。
みなさん、気楽にやってくださいね。
今日はどうもありがとうございました。

橋本さん:
今日はありがとうございました。

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トークは約60分。
この後、土井先生のサイン会でした。
サインをいただきながら少しお話しできました。
ブログ・Twitterなどでお世話になっているので、僭越ながら感謝とご挨拶をさせていただき、ササッと帰りました。

Twitterでやりとりしていた土井チルドレン(土井先生の家庭料理の実践者)にもお会いできて、幸せな1日となりました。

またこういった機会がありますように、今後も楽しみにしています。

  

 
今回のレポ、けっこうがんばったのでおまけに努力の勲章を置いてみます。笑
   
イベント中メモ↓

 
 メモからの書き起こしノート↓

 
お待たせした皆様すみませんでした。
時間はかかりましたが、とても楽しかったです。
料理に対する見識もさらに深まりました。
読んでくれる方がいるおかげで、私もがんばれました。
ありがとうございました。